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2004/12/31

28.インフルエンザ

 皆さんこんにちは。『Dr.0910』です。

 今日は「インフルエンザ」のことをお話しさせていただこうと思います。

 鼻水が出て、のどが痛くなって、咳や痰が出て、熱も出たりすれば、誰でも風邪を引いたと思いますね。通常、私たちが風邪を引いたことを認識するのは、このような、現れた症状に対してです。そして、症状自体をいけないものと判断します。

 しかし、医学的には、風邪は『かぜ症候群』と言い、上気道炎症状を主徴とするウイルス感染症の総称です。鼻水・のどの痛み・咳・痰という症状は、風邪のようなウイルス感染症でなくても出ることがありますが、その場合は、医学的には風邪ではないのです。あくまでもウイルス感染により症状が出ている場合が風邪なのです。

 風邪の症状がなぜ出るかは、一般の人たちは知らないと思います。ウイルスが悪さをして症状を出していると捉えている人がほとんどだと思いますが、実は、そうではありません。風邪の症状は、自分の体が起こしているのです。

 風邪のウイルスは、まず鼻やのどに付き、そこで増殖し炎症が起こります。この「炎症」というのが一般の方にとってはわかりにくいと思います。“炎”という字が入ってるので、ゴジラが火を吹いて街を破壊しているようなイメージで捉えているのではないでしょうか。つまり、ウイルスが鼻やのどの粘膜細胞を攻撃している状態であると。しかし、その解釈は事実とは全く逆なのです。炎症は自分の体が起こします。生体側の防御反応の一部なのです。つまり、モスラに向かって地球防衛軍がミサイルで攻撃することにより、街が破壊されているようなものです。白血球のような免疫を担当している細胞が、ウイルスが感染している細胞のところに集まってきて、様々な化学物質を分泌し、ウイルスを駆除すべくがんばっている証しが炎症なのです。

 鼻水が出るのは鼻の粘膜に炎症が起こっているからで、これは鼻粘膜にいるウイルスを鼻水と一緒に体外に排出しようとしている生体の防御反応にほかなりません。同様に、は気管支粘膜に炎症が起こっているからで、気管支粘膜にいるウイルスを痰で丸め込んで、咳をすることにより気管支の外に排出しようとしているのです。のどの痛みものどの粘膜に炎症が起こっている為で、この場合、症状自体はウイルスを排出する反応ではありませんが、のどの炎症が起こっていることを自分自身に知らせてくれています。それにより“うがい”をすることでウイルスを排出することができます。

 「でも、発熱は違うでしょ。」と思われた方いらっしゃいますか。

 発熱もウイルスが起こすのではありません。自分の体が熱を出します。正確には、体温を上昇させます。生体に起こっている生命現象とは、絶え間なく繰り返される無数の化学反応の連鎖にほかなりません。化学反応というのは、通常、温度を上昇させることにより反応が速くなります。風邪を引いた場合は、通常状態の生体では起こらないような防御反応を起こさなければならないので、体温を上昇させて化学反応を促進させ、効率よく防御反応を起こそうとしているわけです。決して、局所で起こっている炎症の熱が全身に波及して発熱しているわけではありません。詳しいメカニズムは専門的になるので省きますが、やはり、生体の防御反応の一部として、体が“わざわざ”体温を上昇させているのです。

 「え〜っ、じゃぁ、体がだるくなったり、食欲がなくなったりするのもそうなの?」と思われた方いらっしゃいますか。

 そうなのです。風邪のウイルスが鼻やのどの粘膜で増殖を開始すると、生体側も黙って見ているわけではなく、ウイルスの増殖を抑えるような物質を出すのです。その物質を「インターフェロン」と言います。おそらく名前をお聞きになったことのある方もいらっしゃると思います。このインターフェロンの作用によって、体がだるくなったり、食欲がなくなったりするのです。

 「そんなまどろっこしいことやってられない。さっさと薬飲んで治せばいいじゃないか。」と思われた方いらっしゃいますか。

 これも一般の方の大きな誤解の一つです。いわゆる“風邪薬”を飲んでも風邪は治りません。“風邪薬”とは、風邪の症状を抑える薬です。“風邪薬”の中には、鼻水止めや咳止めなどの風邪の症状に対する薬効成分が幾つか含まれています。ですから、飲めば風邪の症状が抑えられて“効いたような気がする”のです。しかし、実際には風邪のウイルスに対する作用は全くありませんので、いくら「早目の○○○○」を飲んでも、風邪が早く治ることはありません。一度、効能書を見てみて下さい。効能の最初に“かぜの諸症状の緩和”と書いてあるはずです。そして、“かぜを治す”とはどこにも書いてないはずです。当たり前です。もし書いてあったら、それは薬事法違反です。そんな薬効などないのですから。

 ここで皆さん、よーく考えてみてください。いわゆる“風邪薬”は、飲んでも風邪が治るわけではないばかりか、正常な生体の防御反応である風邪の諸症状を押さえ込んでしまうのですよ。そんな薬、本当に飲む必要があると思いますか。飲む必要性を敢えてひねり出せば、日常生活上支障があるからでしょうか。つまり、症状が強い為に苦痛を伴い、仕事などに差し支えがあるからということです。この理由しか見当たりません。つまり逆に考えれば、風邪をひいても、その症状が日常生活に支障にならなければ、薬を飲む必要はないのです。

 ついでに言っておきますが、抗生物質で風邪が治ると思っている人も多いのですが、これも大きな誤解の一つです。抗生物質は細菌を殺す薬ですので、風邪の原因であるウイルスには全く効きません。細菌とウイルスは、急性感染症を起こす原因ということで似ているような気がしますが、生物学的には全く違うものです。

 「じゃあ、風邪をどうやって治せばいいんだ。」と思われた方いらっしゃいますか。

 ここが最も大事なところです。“風邪は自分の体が治します”。免疫反応でウイルスを駆除して治します。通常、風邪のウイルスを駆除する免疫反応とは、個々のウイルスに対する抗体をリンパ球が産生することです。抗体とはガンマグロブリンという蛋白で、免疫グロブリンとも言われます。リンパ球が産生した抗体がウイルスと結合すると、ウイルスはもはや増殖することができなくなり駆除されるのです。

 「何だ、それならさっさと免疫反応を起こせばいいじゃないか。」と思われた方いらっしゃいますか。

 その通りなのですが、実際にはそううまくはいきません。なぜなら、ウイルスだって何百種類もありますし、免疫反応は体外から進入するありとあらゆる異物に対して起こり得るのです。免疫反応により抗体を産生して駆除する対象を「抗原」と言いますが、つまり、それらありとあらゆる抗原一つ一つに対して、駆除するに十分な免疫反応を起こすだけのリンパ球を常備していることは不可能なのです。だから、生体は、風邪のウイルスが体内に侵入すると、そのウイルスに対する抗体を産生するリンパ球を体内のどこかから探し出し、そして、そのリンパ球を増殖させ、かつ成熟させてから、抗体を産生し始めるのです。これは、あらゆるタイプの怪獣に対する十分な軍備を備えた地球防衛軍を常備しておくのではなく、怪獣が現れたら、それからその怪獣に対するスペシャリスト部隊を組織し、鍛えてから攻撃を開始するようなものです。このような攻撃方法は効果は大きいかもしれませんが、準備の為に時間がかかります。ですから、リンパ球による抗体産生もウイルスが進入してから約1週間かかって始まります。(ただし、一度抗体を産生したことのあるウイルスの場合は、ウイルス進入後、直ちに抗体産生が始まります。)この1週間のタイムラグ期間に、何とかウイルスを駆除しようとする生体の反応が風邪の症状として現れるのです。

 風邪のウイルスにはたくさんの種類がありますし、風邪をひいた人のその時の体の状態によって、症状の起こり方は様々です。基本的に、症状が強い場合には、それだけ生体の防御反応が強く起こっているということです。例えば、インフルエンザの場合は、通常の風邪など比べ物にもならないくらい強い症状が出ることがあります。(それで、私はインフルエンザのことを“風邪の親分”と言っています。)

 以上のように、風邪の症状は生体の正常な防御反応であり、風邪を治すのは自分の体であることは、皆さんにしっかり認識してほしいと思います。(しかも、このことは風邪に限ったことではなく、私たちが“病気”と呼んでいる現象全般に言えることでもあります。)

 というわけで、私は風邪をひいても薬など飲んだりしません。でも、ちゃーんと風邪は治ります。

 ここで、私の貴重な体験を皆さんにご提示させていただきます。平成15年の年明け早々、私は、それまでの人生で最も重症のインフルエンザに罹りました。その時も、もちろん薬など一切飲みませんでした。その時の貴重な経過を記録しておきましたので、インフルエンザとは本来どんな病気なのか、皆さんにお伝えできれば幸いです。


0日目
トイレなど暖房の無い場所で、いつもより寒気を感じることがあった。

1日目
夕方から時々、咳(空咳)をしていた。

2日目
朝起床時、眠気が強く寝坊してしまった。
その後、いつも通り出勤したが、午前9時に外来に出た時点で体の変調に気がついた。頭がボーっとして、体がだるく、声も嗄れていた。
症状はどんどん強まっていき、午後には寒気がするようになり、節々の痛みも出始めた。
夜やっとの思いで帰宅して熱を計ると、38.5℃であった。食事は多くは無いが何とか食べられた。
午後9時には布団に入り、体が熱いのですぐ温まったが汗は出なかった。
症状としては、発熱、全身倦怠(体のだるさ)、関節痛、筋肉痛、腰痛など、体のあちこちの痛みが主であった。鼻汁(鼻水)、咳(せき)、咽頭痛(のどの痛み)もあったが、強くは無かった。

3日目
朝、熱は38.7℃。全身倦怠感強く、また、体のあちこちの痛みも強く、布団から出られる状態ではなかった。
昼までそのまま寝ていたところ、少し汗をかき、熱が37.8℃に下がった。そこで、起きて居間へ行き、少し食事をとった。
3時間ほど起きていたが、座っている姿勢を保つのも大変だった。
午後3時ごろ床についたが、熱が38.2℃に上がっていた。
夕方までにまた少し汗をかき、夕方、何とかシャワーを浴びて着替えをした。
食事はいつもの半分くらいの量をおかゆでとった。
午後9時過ぎに床についたが、熱は38.7℃に上がっていた。
症状は朝から一日変わらず、鼻汁、咳、咽頭痛はやはり強くは無かった。

4日目
朝、熱は38.5℃。昨日よりも症状が強く、全然動ける状態ではない。ただ、よく汗をかくようになっていた。
昼に一度起きて着替えをするも、食欲は無く、おかゆは全く食べられず。
熱がでてからポカリスエットばかり飲んでいる。
結局、午後3時頃まで起きていたのだが、昨日より辛い。再び床に就いた時、熱は38.9℃に上がっていた。
その後また、汗をかき、午後10時頃起きて着替えをした。しかし、やはり食事は食べられず。やっとの思いで、ヨーグルトを食べ、水分補給をして寝た。熱は38.5℃であった。
症状は昨日より強く、ピークという感じであった。
また、痛みの中では、頭痛が昨日よりも強くなっていた。鼻汁、咳も少し強くなってきていて、咳をした時に少しばかり痰も出た。

5日目
朝、午前4時にトイレに起き、下痢をした。この時、床を出る時から、“いわゆる貧血発作”が起こり始めていた。トイレでピークとなり、用を済ませた後、トイレから出て横になろうとして倒れてしまった。気が遠くなったが、完全には気を失わなかった。
しばらくして落ち着いたところで、居間に行き、冷や汗でぐっしょりになった為、着替えをした。ストーブの前で1時間ほど横になり、落ち着いてから床についた。
その後、また汗をかき、午前9時半頃に起きて着替えをした。この時、熱は37.8℃に下がっていた。
熱が下がると、全身倦怠・全身痛がかなり軽減するが、頭痛は昨日よりも強くなっていた。また、鼻汁がよく出るようになり、一日中鼻をかみどおしであった。鼻汁も痰も少し黄色い色がつくようになり、血が混じっている時もあった。
相変わらず食欲は無かったが、味の濃いものなら食べられそうだったので、いわゆる『にゃんにゃんご飯』(味噌汁をかけたご飯のことです。)にして食べた。量は通常の半分程度。
お昼過ぎまで少し調子がよかったが、その後、また全身倦怠・全身痛・頭痛が強くなり、午後3時頃にはまた床についた。その時熱は38.9℃であった。
その後、また汗をかき、熱が37.6℃まで下がり、午後8時頃起きてシャワーを浴びた。食欲は無かったが、おかゆを半分量ほど食べられた。
午後10時に床についた時、熱は38.2℃だった。

6日目
朝方汗をかき、午前10時頃起きた時には、熱が37.2℃に下がっていた。全身倦怠・全身痛・頭痛も昨日までと比べると半分以下という感じである。咳・鼻汁も少し減った。しかし、色はついていた。
食欲も徐々に回復し、いつもの5〜6割は食べられた。
午後10時過ぎに床に就くまで起きていても大丈夫であった。

7日目
朝、午前9時頃起床時には、熱は無いようで、全身の節々の痛みと頭痛はほぼ消失し、痛みは揉み返しがきた腰痛と咳による胸痛だけであった。咳は相変わらず突発性に出ていた。痰は少ないが黄色い色はついていた。鼻汁はやや粘りが出て黄色い色が濃くなった。鼻をかむと、一時的だが、鼻が通り易くなった。
昼過ぎに体のだるさがややあったが、30分ほどの臥床で良くなった。熱を測ったところ35.9℃であった。
午後11時過ぎに就寝するまで起きていても大丈夫であった。少し本を読んだり、パソコンに向かうこともできた。

8日目
朝、午前6時起床したが問題なし。いつもと同じように出勤でき、職務もこなせた。ただ違うのは、早い動きができず、動くと動悸がして息が切れた。
鼻汁は少なくなってきたが粘調で色はついていた。声がこもっていた。咳は少なくなった。腰痛・胸痛もやや軽減した。
食事はいつもの8割は食べられた。

9日目
昨日よりも動悸・息切れが少なくなった。腰痛・胸痛はほぼ消失。鼻汁はさらに少なくなり、色も白っぽくなった。鼻をかんだ時の鼻の通りが良くなった。咳はまだ時々出ていた。
食事はいつもの9割ほど食べられた。

10日目
午前中の外来は患者が多く、さすがに応えた。息が切れたし疲れた。
鼻汁はさらに少なくなった。咳はまだ時々出ていた。
食事摂取はほとんどいつもと同じになった。

その後は徐々に体力も回復していき、発症から2週間を過ぎてからはほぼ通常の状態に戻っていた。


 以上のような経過でしたが、簡単に解説を加えさせていただきます。まず、発症ですが、寒気というのは非特異的な症状ですので、インフルエンザによるものかどうか判断できません。その為、0日目とし、翌日の咳が出だしたことをもって発症としました。

 38℃以上の発熱は、何と4日間も続きました。この時の発熱・全身倦怠・全身痛は急性期の病勢(病気の勢い)をうまく表現しており、それは“激烈”と言って良い程のものでした。ピークは4日目でしたが、実際には、3日目〜5日目にかけてなだらかなピークを形成したと捉えていただいたほうが良いです。

 その後、6日目からは急速に症状が軽快していますが、これは、インフルエンザウイルスに対する抗体の産生が始まった為と考えられます。特に8日目からは抗体の産生量も増加し、一気にインフルエンザウイルスが駆除され始めたものと推察されます。ウイルス感染から抗体産生開始までの約1週間のタイムラグ期間からは、少し早い気がしますが、実際にウイルスが体内に侵入した時点は、症状が現れた発症時点よりも少し前なのです。それから、少々早くに抗体産生を開始する、言わば“先遣隊”のようなリンパ球もいるからです。

 後は、抗体産生量がどんどん増加するにつれて、元気になり、体力が回復していき、通常の状態に戻って行きました。

 以上のように、インフルエンザは、通常の風邪と比べると症状が激烈で、回復までに時間がかかり、個人に与えるダメージが大きいばかりでなく、流行し易いので社会に与える影響も大きい感染症です。その為、最近ではワクチンによる予防接種を希望する人が増えてきました。私が小・中学生の頃は、毎年必ず皆が受けさせられた時代ですが、その後、効果無しという旧厚生省の判断で、一時期、予防接種をすることはありませんでした。最近、欧米の研究では、やはり効果があるということになって、現在はリバイバルで、また予防接種をするようになったのです。

 しかし、私は小・中学生の頃、何度もインフルエンザに罹りました。予防接種を受けていても、そんなことおかまいなしに罹患しました。インフルエンザには“型”があり、型の変化が速い為、同一時期に、ワクチンに含まれていない型に変異したウイルスに罹患すれば、ワクチンの効果はありませんから‥残念!、というような理由も成り立つかも知れません。でも、私がインフルエンザに罹ったのは1回ではないのです。予防接種は毎年受けているのに、インフルエンザも毎年のように罹っていたのです。インフルエンザではなく、通常の風邪ではないかという推測も成り立つでしょう。記憶もそう確かではないので、何回かはそうかもしれませんが、中学2年・3年、高校3年の時に罹ったのは、間違いなくインフルエンザです。いずれもひどいダメージでした。特に、中学3年と高校3年の時に罹ったのは、何と受験の当日に発症したのです。熱と全身倦怠でボーっとしながら試験を受け、やっとの思いで家に帰り、そのまま寝込んでしまいました。私にはインフルエンザワクチンはほとんど効果がなかったようです。

 インフルエンザは流行し易いと言っても、流行地域の人全員がかかるわけではありません。私は外来でインフルエンザの予防接種を受けるかどうかの希望を聞く時に、過去にインフルエンザに罹ったことがあるかどうかも聞いてみたところ、一度も罹ったことのない人がずいぶんと多いのです。ところが一方では、私のように、インフルエンザに何回も罹っている人もいます。この違いは一体何なのでしょうか?

 理由ははっきりとはわかっていません。しいて言えば、体質の違い、個人差ということになります。私も外来で説明する時にはそのように話していますが、体質と言っているものの本体がわからないので、これ以上は現代医学では説明できません。(ゲノムの研究が進めばわかってくるの“かも”しれませんが‥。)

 でも、なぜインフルエンザになんて罹ってしまうのでしょうか?

 これから、現代医学とは全くかけ離れた、私の私見を述べさせていただきます。現代医学は上記のような問いに対して、「インフルエンザウイルスが体内に侵入して感染するから」と答えます。それは確かにそうなのですが、インフルエンザウイルスは空気感染・接触感染で人にうつるのです。現在の私がインフルエンザを発症すれば、医師として外来でインフルエンザの患者さんをたくさん診療しますので、感染の機会が多い為、インフルエンザに罹り易いとも言えます。でも、私は学生時代の方が明らかにインフルエンザに罹り易かったのです。でも、もちろんクラス全員が罹っていたわけではありません。「空気感染・接触感染」ということからはクラスの皆はそんなに条件は変わらないはずです。私だけがインフルエンザに罹り易い条件だったとは思えません。ならば、インフルエンザに罹らなかった人も、インフルエンザウイルスが鼻やのどに侵入していたはずです。でもインフルエンザに罹らなかった。ということは、インフルエンザウイルスが鼻やのどに付いても、感染が成立する人と成立しない人がいるということになります。私は、学生時代から、このことを疑問に思ってきました。

 実は、感染が成立する為には、ウイルスのような病原体が体内に侵入するだけでは十分ではないのです。感染症を発症する生体(“宿主”と言います)側の条件も揃わないと感染は成立しないのです。つまり、インフルエンザに罹るには、罹るだけの理由が自分自身にあるということです。このこと自体は現代医学でも言われています。大学の講義でも習いました。しかし、あまり重要視されず、インフルエンザに限らず感染症では、いつもウイルスや細菌が悪者扱いです。実際、宿主側の条件というものがよくわかっていないのです。曖昧なまま、よく、免疫力の低下とか体力の低下とか言われます。でも、元気に飛び回っている中学生が本当に免疫力が低下しているのでしょうか?体力が低下しているのでしょうか?

 私は、インフルエンザのような急性感染症の本当の原因は、発症時の生体側にあると考えています。しかし、それはよく言われるような免疫力の低下とか体力の低下ではありません。インフルエンザの場合は、『インフルエンザ感染症がその生体にとって必要なことである為、起こるべくして起こる』と考えています。つまり、インフルエンザウイルスに感染することは、単なるきっかけであり、その後に生体に起こる様々な反応が、その時点の生体にとって必要なことである為、生体がインフルエンザ感染症を自ら発症すると考えているのです。そして、生体にとってインフルエンザ感染症を発症する必要性とは、『浄化』であろうと考えています。

 なぜ、このような考えになったかと言いますと、中学2年のインフルエンザに罹った時、3日間ほど寝込み、発症から1週間は体がとてもしんどかったのですが、先にご説明しましたように、1週間を過ぎてから調子が回復しだし、発症後約2週間で元の元気を回復しました。そしてこの時、私はある経験をしたのです。それは、2週間たって回復した時には、発症前よりも明らかに体が軽くて調子が良く、不思議なほどの爽快感を経験したのです。インフルエンザに罹患してとても大きなダメージを受けたのですから、その後の調子もあまり良くないのではないかと思いがちですが、全く逆の体験だったのです。何か体の中がリフレッシュしたような、何とも言えない爽快感でした。このような経験、皆さんにもおありではないでしょうか。その後、何回もインフルエンザから回復するたびに、私は同様の経験をしました。そうしてこう思ったのです。

『インフルエンザって、何だか煙突掃除みたいだな。』

 つまり、煙突の中に詰まっていたすすが取り除かれて通りが良くなるように、発症時の体の中に溜まっていた毒素のようなものが、インフルエンザを発症することにより取り除かれ、回復した後は発症前よりも体の調子が良くなるのだと考えるようになったのです。

 このことは、「体の中をきれいにすること」と考えるとわかり易いと思います。私たちが何かをきれいにする時はどうするかと言えば、水で洗い流すのではないかと思います。しかし、例えば、何らかの毒素をきれいにするにはただ水で洗い流すのではなく、その毒素を無毒化しなければなりません。このような「毒素を無毒化して水で流す」ことに相当する反応が、インフルエンザで起こっていると考えています。

 非常に簡潔にわかりやすく言えば、発熱や全身の痛みで象徴される炎症という化学反応で無毒化して、目汁・鼻汁・痰・下痢・汗・尿として体外に洗い流してしまうということです。

 先ほど『浄化』という言葉をなぜ使ったかというと、私はこのような反応がまさに体の「お浄め(おきよめ)」というイメージで理解しているからなのです。お浄めには『火』による浄化と『水』による浄化の二通りがありますが、インフルエンザで起こる一連の反応も『火』と『水』による浄化が組み合わされていることがわかります。「発熱」が『火』というのはイメージとしてわかり易いと思います。また、「目汁・鼻汁・痰・下痢・汗・尿」はまさに『水』そのものです。

 このように、『火』の要素と『水』の要素による体の浄化が、インフルエンザの本質ではないかと思っています。

 それではここで、今年一年を振り返ってみましょう。今年は桜の開花が例年より2週間くらい早く、夏も大変暑く、全国各所で連続真夏日を更新しました。関東では、浅間山の噴火もありました。集中豪雨による川の氾濫などの水害も各所でありました。台風の上陸数は史上最多の10個を記録し、全国各所に雨と風による被害が出ました。そして、地震も各所で起こり、新潟県中越地震のような大きな被害も出ました。被害に遭われた多くの方々には、本当にお悔やみ申し上げます。

 今年を象徴する漢字に『災』が選ばれたように、これらは私たち人間の側から見れば災害です。でも、本質的には地球上で起こっている自然現象です。ですから、地球にとって何らかの意味があるのではないでしょうか。

 そうなのです。私はこのような自然現象は、地球の『浄化』現象なのではないかと思うのです。夏の暑さや火山の噴火という『火』の要素。豪雨という『水』の要素。台風による暴風という『風』の要素。地震という『地』の要素。これら『地・水・火・風』という四つの要素による浄化現象が、例年よりも激しく、今年の日本列島に起こり、日本列島とここに住む私たちを浄化してくださったのだと理解しています。

 来年は、インフルエンザから回復した後の爽快感のように、日本列島も私たちもリフレッシュするのでしょうか。きっと、そうなることを、そして、皆が幸福に暮らせる平和な世界が訪れることをお祈りいたします。

 それでは皆さん良いお年を。

平成16年12月31日

Dr.0910

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