受精の瞬間をもう少し詳しく見てみましょう。
排卵された直後の卵細胞(卵子)は透明帯とその外側の放線冠と呼ばれる顆粒膜細胞の層によって取り囲まれています。精子が卵子に接近すると精子の先端にある先体という部分から酵素が放出されます(先体反応)。その酵素により卵子周囲の放線冠を除去し、さらに内側の透明体を融解して精子が侵入して行きます。そして精子が透明帯を通過すると、卵細胞の細胞膜と精子の形質膜が癒合し、卵細胞の細胞質と精子の形質膜内は一体となり、精子の核・ミトコンドリア・尾部などの中身が卵細胞の中に侵入します。【図1-7】
排卵後、卵細胞は減数分裂という生殖細胞だけに起こる特殊な細胞分裂の第2回目の途中のまま止まっていたのですが、受精によりこの分裂が再開されます。その結果、第二極体が放出され成熟卵細胞となり、さらに核は雌性前核へと変化して行きます。この頃には放線冠はすでに消失しています。【図1-8,A】
卵細胞の細胞質内へ侵入した精子の核が大きくなり雄性前核を形成します。精子の尾部は退行変性し消失します。雌雄それぞれの前核は、成長中にDNAを倍加させます。つまり前核がまだ癒合する前から受精卵はすでに第1細胞分裂の準備に入っているのです。 【図1-8,B】
雄性前核と雌性前核は細胞の中央に移動し、やがて癒合して一つの核となり受精が完了し、父方と母方の遺伝情報は一つになります。この段階の受精卵は接合子とも呼ばれます。 【図1-8,C】
受精卵すなわち接合子の核内にはすでに染色体が出現しており、受精後およそ30時間で最初の有糸分裂を行って2細胞期となり、その後もどんどん細胞分裂を繰り返して行きます。【図1-8,D】