ユングは精神病患者に心理療法を行なう際、『夢分析』を特に重要視していたのですが、非常に合理的な考えの持ち主で、夢分析という非合理的な治療法を頑なに拒み続け、治療に難儀していた女性患者がいました。ある日この女性患者は、スカラベ(フンコロガシ)をプレゼントされる夢を見ました。非常に印象に残ったらしく、翌日のユングとの面接でその夢について話し始めました。すると、面接室の窓をコツコツと叩く音がするので、二人とも窓の方を見てみると、そこには一匹のコガネムシが窓にぶつかっていました。ユングが窓を開けると、そのコガネムシが入ってきて、机の上に止まったところ、その姿はまさに女性患者が見た夢に出てきたスカラベにそっくりでした。この女性患者は、その時以来、ユングの治療を受け入れ、その後、治療がスムーズに進んだそうです。
このような『意味のある偶然の一致(meaningful coincidence)』を説明するために、ユングは『共時性(シンクロ二シティ:synchronicity)』という考えを提唱しました。