この現象界に生じている物理的な現象は因果律に規定されており、原因があり、現象はその結果として起こるわけです。逆に言えば、何らかの物理的な現象が起こった場合、その原因があるのです。しかし、先の「スカラベの事例」で言えば、女性患者がスカラベの夢を見たから面接室にコガネムシが現れたのではないことは明らかです。二つの事象の間に因果関係はありません。しかし、女性患者がスカラベの夢を見たことと面接室にコガネムシが現れたこととは、偶然の一致でありながら非常に意味があり、その意味を考えると二つの事象の間に何らかの関連性があると考えることはそう難しいことではないと思います。そこには『意味のある偶然の一致』を生ずる因果律によらない規律があるとユングは考え、その原理を『共時性(シンクロニシティ)』と呼んだのです。(共時性は、別名を「非因果的連関の原理」と言うそうです。)
私にはそれまでの人生で、ただの偶然の一致では納得がいかないようなことがたくさんありました。だから、この辺でも目からウロコがボトボトッと落ちました。「やっぱり、そうだよな〜。」という感じでした。
合理的精神一辺倒では、先の「スカラベの事例」ですら、因果関係が認められないので「ただの偶然の一致だよ。意味なんかないのさ。」で終わってしまい、味も素っ気もありません。でも、共時性という原理を通して身の回りに起こることを再認識してみると、そこには共時性に彩られたと思える事象が意外とたくさん存在していることに気づかれるのではないかと思います。そして、それらを受け入れると、味も素っ気もなかったこの世界が彩りを得たように感じ、何だかわくわくしてきて、楽しくなってくるのは私だけでしょうか。